年頭のご挨拶、昨年の十大ニュースから

あけましておめでとうございます。
いつも品証研メールマガジンをご覧いただきありがとうございます。本年も読者の皆様のお役に立つ情報を発信してまいりますので、ご愛読いただければ幸いです。
毎年年末、新聞紙上に「今年の十大ニュース」が掲載されますが、皆様はどのニュースに関心を持たれましたか? 私は品質に関わる仕事に従事していることもあり、自動車メーカーD工業の品質不正のニュースに着目しました。
以下はD社ホームページからの情報です。発端は昨年の4月、D社内での「側面衝突試験において、認証する車両の前席ドア内張り部品の内部に不正な加工を行っており、法規に定められた側面衝突試験の手順・方法に違反している」という内部通報でした。D社は5月に、事案の全容解明、真因分析、再発防止策の実施に向け第三者委員会を設置しました。
12月20日に公表された第三者委員会の調査報告書によると、内部通報のあった案件以外に、174個(不正加工・調整28個、虚偽記載143個、元データ不正操作3個)が見つかり、一番古いものは1989年の不正行為が認められたが、全体の傾向として、2014年以降に不正行為の件数が増加している傾向にあるとされています。
自動車業界では私が記憶しているだけでも、2016年にM自動車の燃費不正問題が発覚、また2017年にはN自動車で完成検査員に任命されていない作業員が完成検査に従事していた問題が発覚しており、他社の不正が大問題になっているタイミングで、ヒアリングや総点検によりD工業内で不正を見つけることができなかったことを残念に思います。
調査報告書には発生原因として、以下の点が挙げられています。
(1)過度にタイトで硬直的な開発スケジュールによる極度のプレッシャー
・認証試験は合格が当たり前、不合格による開発スケジュール変更はあり得ない
(2) 現場任せで管理職が関与しない態勢
(3) ブラックボックス化した職場環境(チェック体制の不備等)
(4) 法規の不十分な理解
(5) 現場担当者のコンプライアンス意識の希薄化、認証試験の軽視
また真因として、D工業の開発部門の組織風土の問題(コミュニケーション不足、「できて当たり前」の発想が強く失敗に対して激しい叱責や非難あり)が指摘されています。
航空・防衛・宇宙分野では、強固なQMSを構築するための規格SJAC 9068Bが存在し、JAQG発行のガイダンス文書で『不正は「動機・圧力」「機会」「正当化」の3つが揃うと発生する』との説明があります。(下図参照)今回のD工業の品質不正も、極度のスケジュールプレッシャーや合格が当たり前という「動機・圧力」、担当者が不正を働いても管理職が関知しない「機会」、認証試験を軽視し安全性に問題ないと自己判断する「正当化」が揃って発生したものと考えます。

今年はこのような品質不祥事が「十大ニュース」に出てこないことを切に望みます。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
2023年は辰年、皆様のご健勝とご多幸を、そして昇竜のごとく皆様が発展されますことを祈念いたします。本年も何卒よろしくお願いいたします。
名古屋品証研株式会社
代表取締役 有田 智充